ATAWI FUDOSAN 富士ヶ丘サービス株式会社

Column 04

親が施設に入った実家を、
戻れるように残しておきたい。

「施設に入ったけれど、母はまだ家に帰るつもりでいる」「本人が生きているうちに実家を売るのは、どうしても気が進まない」。このお気持ちは、私たちが最も多くうかがうものです。ですからはっきり申し上げます。売らなくていいのです。ただし、空き家のまま置くことは「残す」ことにはなりません。

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お母様が特別養護老人ホームに入居された。あるいはお父様が老健からそのまま長期の施設へ移られた。手続きが一段落して、ふと気づくと、生まれ育った家に誰もいなくなっている。鍵を閉めて帰るとき、玄関の電気を消しながら「これで終わりなのだろうか」と思われた方は、多いのではないでしょうか。

そのあと、周りから「早く売ったほうがいい」と言われます。不動産会社からチラシが入る。親戚が「空き家は物騒だ」と言う。ケアマネジャーさんからも、施設費用の話が出る。でも本人はまだ元気で、面会に行けば「家に帰りたい」と言う。売るという決断が、どうしてもできない。——このご相談を、私たちは毎月お受けしています。

結論を先に申し上げます。売らなくて構いません。無理に決断する必要はまったくありません。ただ、ひとつだけお伝えしておきたいことがあります。「そのままにしておくこと」と「残しておくこと」は、まったく違うということです。無人のまま置かれた家は、残るのではなく、失われていきます。

誰も住まない家は、思っているより早く帰れなくなります

不動産を扱っていると、空き家になった家を何十軒と見ます。そこで痛感するのは、家というものが人の暮らしによって支えられているという事実です。人が住まなくなった瞬間から、家は坂を下り始めます。

最初に来るのは湿気とカビです。日本の住宅は、窓を開けて風を通すことを前提に造られています。閉め切られた家の中は、夏場には外より高温多湿になり、押入れ、畳の裏、家具の裏側からカビが広がります。半年も経てば、玄関を開けた瞬間に独特の匂いがするようになります。この匂いは、内見に来た方が最初に感じるもので、賃料にも査定額にもはっきり響きます。

次に排水の封水切れです。台所や洗面台の下にあるS字の管には、下水の臭気を止めるための水がたまっています。使わない期間が続くとこの水が蒸発し、下水管が家の中と直結します。臭気だけでなく、そこから虫が上がってきます。ひと夏放置しただけで、台所がゴキブリの通り道になっていた家を、私たちは実際に見ています。

そして誰も気づかない不具合です。台風で瓦が一枚ずれた。雨樋が落ち葉で詰まって水が壁を伝っている。給湯器の配管が凍結して割れた。人が住んでいれば当日中に気づくことが、無人の家では次に誰かが来るまで——半年後かもしれません——放置されます。その間に雨水は天井裏へ回り、木材を腐らせ、シロアリを呼びます。

誰も住まなくなった家に、順番に起きること 3か月 1年 3年 5年 封水が切れる 室内の匂い 庭木が伸びる 押入れのカビ 畳の傷み 近隣からの苦情 雨漏りの進行 シロアリ 設備の故障 構造部の腐朽 貸すには 大規模な修繕 3年を過ぎたあたりから、「貸すための修繕費」が先に必要になります。 早く動くほど、お金をかけずに済み、本人が帰れる状態も保てます。
図1「そのままにしておく」は現状維持ではありません。帰れる家から、帰れない家へ変わっていきます。

つまり、お母様が「帰りたい」とおっしゃっている家を本当に帰れる状態で残したいなら、空き家にしておくのが最悪の選択なのです。逆に、誰かに住んでもらっていれば、毎日窓が開き、水が流れ、不具合はその日のうちに見つかります。人が住むことは、月々五千円の管理サービスよりずっと確実な管理です。

期間が来たら確実に終わる契約が、あります

そうは言っても、と思われるはずです。人に貸してしまったら、本人が帰りたいと言ったときに出ていってもらえないのではないか。まったくもっともなご心配で、そしてふつうの賃貸借契約では、そのご心配は当たっています。

一般的な賃貸借契約——普通借家契約といいます——では、契約書に期間を書いても、期間が来れば原則として更新されます。貸主から更新を断るには「正当な事由」が必要で、これが非常に厳しい。貸主側の事情が入居者の生活の必要性を上回っていると認められなければならず、実務では立退料の支払いを伴ってようやく話がまとまることも珍しくありません。借主保護が徹底されているのが日本の借地借家法です。

そこで使うのが定期借家契約です。これは、あらかじめ定めた期間が満了すれば、更新されることなく契約が終了する形です。三年と決めれば三年で終わります。正当な事由も立退料も要りません。

 普通借家契約定期借家契約
期間が来たら原則として更新される更新されず終了する
貸主から終了させるには正当な事由が必要(実務上は困難)期間満了を待つだけ
立退料必要になることがある不要
契約の手続き通常の契約書書面での事前説明が必須
家賃の水準相場どおりやや下がる傾向
向いているのは当面売る予定がない家戻る可能性・売る予定がある家

定期借家には、ひとつだけ厳密な手続きがあります。契約書とは別の書面で、「この契約は更新がなく、期間満了で終了する」ことを事前に説明しなければなりません。この説明を欠くと、定期借家の合意そのものが無効となり、普通借家として扱われてしまいます。つまり、期間が来ても終わらない契約になってしまう。慣れていない業者が扱うと、ここで事故が起きます。私たちが契約前に必ず、どちらの形態でお預かりするかを明示しているのはそのためです。

期間の決め方についても、ご相談ください。ご本人の状態から「三年後にもう一度考える」という設計もできますし、「五年」でも構いません。期間が短いほど借り手は慎重になり、家賃はいくらか下がります。出口の自由と家賃の高さは、ある程度トレードオフの関係にあるとご理解ください。それでも、空き家のまま五年置くのと比べれば、手元に残るものは比較になりません。

定期借家で3年貸したときの流れ 3年間・入居者が暮らす 家賃が入り、換気され、不具合はその日に見つかる 期間満了 確実に明け渡し 満了後に選べること 本人が戻る 住める状態が保たれている もう一度貸す 再契約という形で継続 売る 空室のまま売却できる
図2三年後に、あらためて三つのうちから選べます。今この時点で決めなくていいのが、この方法の一番の値打ちです。

家賃が施設費用を支えます。ただし、注意点があります

施設に入居されると、費用が毎月出ていきます。特別養護老人ホームなら月に十万円前後、介護付き有料老人ホームであれば二十万円を超えることも珍しくありません。年金だけでは足りず、預貯金を取り崩している——というご家庭は非常に多いのが実情です。

実家を貸せば、その家賃はご本人の収入になります。磐田市・袋井市の戸建てであれば、状態と広さによりますが月に五万円から八万円ほどの水準になることが多く、この金額は施設費用の不足分を埋めるにはかなり有効です。預貯金の減り方が緩やかになるということは、その分だけ「売らなくていい期間」が延びるということでもあります。

ただし、ここで必ずお伝えしなければならない注意点があります。家賃収入は、介護保険の負担に影響することがあります。

収入が増えると、介護の自己負担が上がることがあります 介護保険の自己負担割合(1割・2割・3割)は、ご本人の所得によって決まります。また、施設入居中の食費・居住費を軽減する特定入所者介護サービス費(いわゆる補足給付)は、所得と預貯金額で判定され、一定を超えると受けられなくなります。高額介護サービス費の負担上限額も所得段階で変わります。つまり、家賃収入が増えたことで、月々の介護費用の自己負担が上がり、手取りベースでは思ったほど改善しない場合があるということです。ご本人の年金額や現在の負担割合によって影響は大きく変わりますので、貸す前に必ず、担当のケアマネジャーや市町村の介護保険窓口でご確認ください。私たちも想定家賃をお出ししますので、その数字を持って相談に行っていただくのが確実です。

この点を伏せたまま「貸せば得ですよ」と勧める会社もあるかもしれません。私たちはそうしません。試算した結果、負担増と相殺されてほとんど手残りが変わらない、というケースも実際にあります。それでも、建物が傷まないこと、固定資産税を家賃から払えること、無人の家を心配しなくてよくなることには、金額に表れない価値があると考えています。判断材料を全部お出ししたうえで、決めるのはご家族です。

仏壇と、荷物と、思い出のこと

「人に貸すとなると、荷物を全部片付けなければいけないのでしょうね」。これもよくいただく質問です。原則としては、生活空間はすべて空けていただくことになります。ただし、やり方はいくつかあります。

ひとつは、納戸や一部屋を貸主側の物置として除外して契約する方法です。家全体を貸すのではなく、この部屋は開けません、という条件で募集します。当然その分だけ家賃は下がりますし、借り手も限られますが、「どうしても処分できないものがある」というご事情には合います。

もうひとつは、期間を区切って、その間だけ外部の倉庫に預ける方法です。トランクルームの費用は家賃から十分に賄えることが多く、三年後に戻すと決めておけば、今すぐ処分の判断をしなくて済みます。「捨てる」という決断をご本人が存命のうちに家族がすることの重さを、私たちは知っているつもりです。

仏壇については、菩提寺にご相談のうえ、ご自宅へ移されるか、閉眼供養をしてお焚き上げにされるご家庭が多いようです。この判断だけは私たちの領分ではありませんので、お寺の方とお話しください。ただ、「仏壇があるから貸せない」と諦めてしまう前に、ご相談いただければ選択肢はお示しできます。

実際にお受けした相談から(再構成) 「母は施設で三年過ごして亡くなりました。その間、実家は若いご夫婦に住んでいただいていて。母には『きれいに使ってくれる人がいるよ』と伝えていました。返ってきた家は、閉め切っていた頃より明らかに良い状態でした。売却まで含めて、あのとき貸してよかったと思っています」

ご本人がご存命の間は、家は売らなくていい。私たちはそう考えています。売るのは、いつでもできます。けれど一度売ってしまえば、二度と戻りません。そして「まだ売りたくない」というお気持ちを、経済的な理由で押し切られてしまうご家族を、私たちは何度も見てきました。家賃という収入があれば、その押し切られ方をしなくて済みます。貸すことは、決断を先送りするための消極的な選択ではなく、ご本人の気持ちを守るための積極的な手段だと思っています。

私たちが管理費0円でお預かりする理由

富士ヶ丘サービスは、磐田市で介護施設を運営しながら、宅地建物取引業者として不動産の相談を受けてきた会社です。「親が施設に入った後の家をどうするか」というご相談は、介護の現場で最も多く聞いてきたものでした。そして分かったのは、多くのご家族に必要なのは今すぐ売ることではなく、落ち着いて決めるための時間だということです。

だから私たちは、戸建て賃貸としてお預かりする際、オーナー様から月々の管理料をいただきません。本業が売買仲介だからです。いずれ売る日が来たとき、その売却をご一緒できればそれで成り立ちます。賃貸管理料を収益の柱にしている賃貸専業の会社とは、そこが根本的に違います。売り時が来たら「今なら売れます」と言える立場にいることが、私たちの価値だと思っています。

現在、磐田市・袋井市を中心に9件を管理費0円でお預かりし、すべてに借主がついています。0円なのは管理料であって、修繕費・原状回復費・固定資産税・火災保険料といった実費と、賃貸借契約時の仲介手数料は別途かかります。そこを曖昧にするつもりはありません。

この記事のまとめ

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本記事は2026年8月時点の一般的な整理であり、個別のご事情に対する法務・税務・介護保険制度の最終判断ではありません。介護費用の自己負担割合や補足給付の判定基準は、所得区分・世帯構成・資産の状況および制度改正によって変わります。実際の判断にあたっては、ケアマネジャー、市町村の介護保険窓口、税理士など各専門家の確認を必ず受けてください。当社は宅地建物取引業者として、不動産の状態確認・賃料の見立て・募集と管理の部分をお手伝いします。