Column 02
相続が終わっていない実家でも、貸せますか。
「兄弟で話がまとまらないから、実家は当分このまま」——遺産分割の協議が止まったまま、何年も空き家になっている家を、私たちは数えきれないほど見てきました。分割が終わるまで何もできない、と思い込まれている方が多いのですが、そうとは限りません。期間3年以内の賃貸であれば、相続人全員の同意がなくても決められる場合があります。
お父様が亡くなって半年。四十九日が済み、香典返しも終わり、いよいよ実家をどうするかという話になった。ところが、兄は「売ろう」と言い、妹は「まだ実家がなくなるのは寂しい」と言う。遠方の弟は電話に出ない。話し合いは平行線のまま、気がつけば一年、二年と過ぎていく。その間、実家の電気も水道も止まったまま、庭木だけが伸びていく——。
ご相談の入口として、これは本当によくある形です。そしてこのとき多くのご家族が信じているのが、「遺産分割が終わらないと、実家については何ひとつ動かせない」という思い込みです。売却についてはそのとおりです。しかし賃貸は、話が違います。
ここを知っているかどうかで、実家の運命が変わります。分割協議に三年かかるご家族は珍しくありません。三年、無人のまま置いた家と、三年、誰かが住んでいた家では、協議がまとまったときに手元に残るものがまるで違うのです。
相続が始まった瞬間、実家は「相続人全員の共有」になっています
まず前提を整理します。人が亡くなると、その瞬間に財産は相続人へ移ります。遺言がなく、遺産分割協議も済んでいない状態では、実家は相続人全員が法定相続分の割合で持ち合う「共有」の状態にあります。登記名義がお父様のままでも、法律上の所有者はもう相続人たちです。
たとえばお母様が既に亡くなっていて、子が長男・長女・次男の三人なら、それぞれ三分の一ずつの持分を持つ共有物になっています。誰か一人の家ではありませんし、長男が同居していたからといって長男のものでもありません。
共有物に対してできることは、行為の重さによって三段階に分かれています。ここが今日の記事のいちばん大事なところです。
3年以内の賃貸なら、全員の同意はいりません
民法は、共有物の管理に関する事項は各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決すると定めています。そして建物については、期間3年以内の賃貸借の設定は、この「管理」にあたると明文で整理されました。つまり、持分の過半数を持つ相続人が賛成すれば、反対している相続人や、返事をくれない相続人がいても、3年以内の賃貸に出すことは可能なのです。
さきほどの三人兄弟の例なら、長男と長女の二人が賛成すれば持分は三分の二。過半数を超えるので、次男の返事を待たずに賃貸に出す決定ができます。ここで重要なのは「頭数の過半数」ではなく「持分の価格の過半数」だという点です。相続分が均等でない場合は計算が変わります。
具体的に見てみましょう。お父様が亡くなり、相続人がお母様と子二人のケース。法定相続分はお母様が二分の一、子がそれぞれ四分の一です。この場合、お母様一人が賛成しただけでは二分の一ちょうどで、過半数に届きません。お母様と子のどちらか一人、合わせて四分の三で初めて決定できます。逆に子二人が賛成してもお母様が反対すれば二分の一ずつで拮抗し、決められません。頭数では二対一でも、持分では割れているのです。この計算を最初にしておかないと、話を進めてから足元が崩れます。
また、遺言があってすでに実家の取得者が決まっている場合や、一部の相続人が相続放棄をしている場合は、そもそも持分の構成が変わります。放棄した人は初めから相続人でなかったものとして扱われるため、残った人の持分が増えます。「誰が、どれだけ持っているか」を確定させることが、貸す話の出発点です。戸籍を集めて相続人を確定する作業は、結局どの道を選んでも必要になりますから、早めに着手して損はありません。
ただし、過半数で決められるからといって、反対している相続人を無視してよいという話ではありません。決定できることと、揉めないことは別です。私たちが実際にお預かりする際は、賛成されている方だけでなく、連絡のつく相続人全員に、どういう条件で、いつまで貸すのか、家賃をどう分けるのかを書面でお知らせすることをお勧めしています。後から「聞いていない」となるのが、いちばん厄介だからです。
連絡がつかない相続人がいるとき
「弟がどこにいるか分からない」「叔父とは三十年連絡を取っていない」。これも本当によくあるご相談です。相続人の一人でも所在が分からないと、遺産分割協議は成立しません。売却はそこで完全に止まります。
この点についても近年の法改正で手当てがされました。所在が分からない共有者や、催告しても賛否を明らかにしない共有者がいる場合、裁判所の決定を得ることで、その人を除いた残りの共有者の持分の過半数で管理行為を決められる仕組みが設けられています。裁判所を通す手間はかかりますが、「一人いなくなると永久に何もできない」という以前の状態からは、確実に道が開けています。
実務的な順序としては、まず戸籍をたどって相続人を確定させ、住民票や戸籍の附票で住所を追います。ここは司法書士の仕事です。手紙を出しても返事がない、宛先不明で戻ってくる——そこまでやって初めて、裁判所の手続きが視野に入ります。順番を飛ばすことはできません。
そしてもう一つ、見落とされがちな点があります。連絡がつかない相続人がいる間も、固定資産税の納税通知書は誰か一人のところに届き、その人が全額を払っていることが多いのです。共有物の固定資産税は共有者全員の連帯債務ですが、市町村は代表者一人に通知を送ります。実際には同居していた長男が黙って払い続けている、というケースをよく見ます。これが十年続けば百万円を超えることもあり、後の遺産分割協議で「これまで自分だけが負担してきた」という強い不満になります。
賃貸に出せば、この構図が変わります。家賃という共通の収入から固定資産税を支払う形にすれば、誰か一人が持ち出しを続ける状態が終わります。お金の出入りが記録として残るので、後の精算も明快です。揉めている家族ほど、この「一人が損をしている状態」を先に解消しておく意味は大きいと私たちは考えています。
家賃は誰のものになるのか。そして相続登記のこと
次に必ず出るのが「入ってきた家賃は誰のものか」という質問です。遺産分割が済むまでの間に生じた賃料は、各相続人がそれぞれの相続分に応じて取得するというのが確立した考え方です。三人兄弟で均等なら、家賃も三分の一ずつ。後から遺産分割で「実家は長男が取る」と決まっても、それまでに発生した家賃が遡って長男のものになるわけではありません。
ここは事前に決めておくと平和です。実務上は、代表者の口座で一括して受け取り、固定資産税や修繕費を差し引いたうえで、年に一度、持分に応じて精算するという形がよく使われます。私たちは家賃の入金確認までお手伝いしますので、どの口座に入れ、どう記録を残すかは最初にご相談ください。お金の流れが見えていることが、揉めない最大の予防策です。
もう一点、避けて通れないのが相続登記の義務化です。2024年4月1日から、相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記をすることが義務になりました。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になります。施行前に発生していた相続も対象で、その場合は施行日から3年が期限です。「分割協議がまとまらないから登記もそのまま」は、もう通用しません。協議がまとまらない場合には相続人申告登記という簡易な手続きも用意されていますので、司法書士にご相談ください。
賃貸に出す側の実務としても、登記は早いほうが有利です。入居を検討される方や保証会社は、誰が貸主なのかを登記で確認します。名義が亡くなったお父様のままだと、「この人は本当に貸す権利を持っているのか」という説明が一段増えます。説明できないわけではありませんが、余計な不安を与えれば、条件交渉で不利になったり、決まるまでの期間が延びたりします。相続登記は義務だから仕方なくやるもの、ではなく、家を動かすための足場だと考えていただくのがいいと思います。
私たちが、まとまる前のご家族からご相談を受ける理由
富士ヶ丘サービスは売買仲介を本業とする宅地建物取引業者です。それなのになぜ、まだ売ると決まっていない、揉めている最中のご家族から相談を受けるのか。答えは、私たちがオーナー様から管理費をいただかないからです。
賃貸管理料を収益の柱にしている会社であれば、預かった家はできるだけ長く預かり続けるほうが得です。「そろそろ売り時です」とは言いにくくなります。私たちは違います。いずれ協議がまとまり、売る日が来たとき、その売却をご一緒できればそれで成り立ちます。だから貸している間の管理料はいただきません。そして売り時が来たら、売買仲介として相場を見続けてきた立場から「今なら売れます」とお伝えします。その日まで一緒に待つための入口として、戸建て賃貸をやっています。
現在、磐田市・袋井市を中心に9件を管理費0円でお預かりし、すべてに借主がついています。0円なのは管理料であって、修繕費・原状回復費・固定資産税・火災保険料といった実費と、賃貸借契約時の仲介手数料は別途かかります。そこは正直にお伝えしています。
最後に、揉めているご家族へ一つだけ。「決めない」という判断にも、毎月コストが発生しています。固定資産税、火災保険料、電気の基本料金、たまに見に行く交通費。そして数字に出ない、家が傷んでいく分。私たちがお会いしてきた多くのご家族は、対立していたのではなく、決めるための材料を持っていなかっただけでした。いくらで貸せるのか、いくらで売れるのか、直すのにいくらかかるのか。その三つの数字が同じ紙の上に並んだ瞬間に、話が動き出したご家族を何度も見ています。まずはその材料を作るところから、お手伝いさせてください。
この記事のまとめ
- 遺産分割前の実家は、相続人全員が持分で持ち合う共有の状態です。登記が故人のままでも同じです。
- 売却は全員の同意が必要ですが、建物の期間3年以内の賃貸は「管理行為」で、持分の過半数で決められます。
- 3年で確実に終わらせるには定期借家契約を使います。普通借家では期間が来ても終わりません。
- 連絡のつかない相続人がいる場合も、裁判所の決定を得てその人を除いた過半数で決められる仕組みがあります。
- 分割前の家賃は各相続人が相続分に応じて取得します。受け取り方と精算方法を先に決めておくと揉めません。
- 相続登記は2024年4月から義務。3年以内に登記しないと過料の対象です。協議中でも申告登記という道があります。
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本記事は2026年8月時点の一般的な整理であり、個別のご事情に対する法務・税務の最終判断ではありません。共有物の管理に関する決定の可否、裁判所の手続きの要否、相続登記の期限の起算などは、相続人の構成や物件の事情によって異なります。実際の手続きにあたっては、司法書士、弁護士、税理士など各専門家の確認を必ず受けてください。当社は宅地建物取引業者として、不動産の状態確認・賃料の見立て・募集と管理の部分をお手伝いします。