Column 10
その空き家、
火災保険は本当に効いていますか。
空き家の維持費として「火災保険料」を挙げる方は多いのですが、その保険が今も有効に効いているかを確かめた方は、ずっと少ないのが実情です。誰も住んでいない建物は、保険の世界では別の扱いになることがあります。払っているのに補償されない、という状態は、実際に起こり得ます。
ご相談の中で、私たちが必ず確認する項目のひとつが火災保険です。「入っていますか」とうかがうと、たいていの方は「たぶん、父の代からずっと」とお答えになります。そこで証券を見せていただくと、二十年前の契約のまま、住所も名義も亡くなった方のまま、というケースが少なくありません。
もっと多いのは、証券がどこにあるか分からないというケースです。親の家の書類は、たいてい仏壇の引き出しか、押入れの奥の箱に入っています。相続の手続きで通帳と権利証は探したけれど、保険証券までは見ていない。あるいは、そもそも保険に入っているかどうかも分からない。この場合、火災保険料が引き落とされている口座を辿るか、代理店に心当たりがあれば問い合わせるところから始まります。分からないまま放置されている保険が、いちばん危ない状態です。
火災保険は、空き家にとって最後の砦です。建物が焼けても、台風で飛んでも、保険が効けばやり直せます。効かなければ、傷んだ家と解体費だけが残ります。そしてこの「効くかどうか」が、空き家では思っている以上に危うい。
住んでいない建物は、住宅として扱われないことがあります
火災保険は、対象となる建物の用途によって区分が分かれています。人が居住している建物は住宅物件、店舗や事務所などは一般物件、工場などは工場物件、といった具合です。区分によって、保険料も、加入できる商品も、補償の中身も変わります。
問題は、誰も住んでいない建物が「住宅物件」に当てはまらないと判断される場合があることです。判断は保険会社や商品によって異なりますが、一般的には、常時無人で家財もなく、生活の実態がない建物は、住宅物件として扱いにくくなります。この場合、一般物件として引き受けられるか、あるいは引き受け自体を断られることがあります。
一般物件になると、何が変わるのか。主なところを挙げます。
| 項目 | 住宅物件(人が住んでいる) | 一般物件・空き家扱い |
|---|---|---|
| 保険料 | 住宅向けの水準 | 割高になることが多い |
| 加入できる商品 | 選択肢が広い | 限られる/断られることも |
| 家財の補償 | 対象にできる | 対象外になることが多い |
| 地震保険 | 付帯できる | 付帯できない場合がある |
| 盗難・水濡れなど | 幅広く選べる | 補償対象から外れることがある |
もうひとつ、意外に効いてくるのが風災・水災の扱いです。この地域は台風の通り道で、屋根や雨樋、カーポートの被害は珍しくありません。住宅向けの契約なら風災は基本補償に含まれていることが多いのですが、空き家扱いになると、そもそも加入できる商品が限られるため、風災や水災を外した最低限の内容しか選べないことがあります。台風で屋根が飛んだのに、その補償が付いていなかった——これは実際に起こり得る話です。
とくに見落とされやすいのが、地震保険が付けられなくなる可能性です。地震保険は居住用の建物と生活用動産を対象とする制度で、住宅物件でなくなると付帯できません。この地域は南海トラフ地震の想定区域に含まれています。地震で全壊しても保険が出ない状態で置いておくというのは、率直に申し上げて、割に合わない持ち方です。
いちばん怖いのは、告知していないまま放置していること
ここからが本題です。多くのご家庭で起きているのは、親が住んでいたときに入った住宅向けの火災保険が、そのまま継続しているという状態です。
保険契約には、契約時に事実を正しく告げる義務(告知義務)があり、契約後に建物の用途や使用状況が変わったときは保険会社に連絡する義務(通知義務)が定められているのが一般的です。「誰も住まなくなった」という変化は、この通知の対象になり得ます。
連絡しないまま放置していると、どうなるか。何事もなければ、何も起きません。保険料は引き落とされ続けます。問題は、事故が起きたときです。保険金の請求をすると、保険会社は現地を調査します。そこで、長期にわたって無人であったことが分かる——家財が一切ない、電気が止まっている、郵便物が何年分も溜まっている——と、通知義務違反として、保険金が減額されたり、支払われなかったり、契約が解除されたりすることがあります。
つまり、「保険料を払っているから安心」が、いちばん危ない誤解なのです。払っていることと、支払われることは別です。
隣家に燃え移っても、賠償しなくていいという法律
火災の話で、もうひとつ知っておいていただきたいことがあります。失火責任法です。
この法律により、失火——うっかりによる火事——で隣家を焼いてしまっても、重大な過失がない限り、損害賠償の責任を負いません。これは加害者側の保護のように見えますが、裏を返せば、もらい火で自分の家が焼けても、隣人から賠償を受けられないということです。
この点は、逆の立場でも同じです。空き家から出火して隣家を焼いてしまった場合、失火責任法により重過失がなければ賠償責任は負いません。ただし「重大な過失」があったと判断されれば話は別です。何年も放置し、敷地に燃えやすいものが積まれ、行政から指導も受けていた——そういう状態で火が出れば、管理を怠っていたとして責任を問われる可能性は否定できません。放置は、法的な立場としても弱いのです。
さらに、賠償責任を免れたとしても、近所との関係は残ります。この地域では、その家に住まなくなった後も、お盆や法事で顔を出す機会があります。自分の家が火元になって隣を焼いた、という事実は、法律上の責任とは別の重さで残り続けます。だからこそ、無人の家を長く置かないという判断には、金額に表れない意味があります。
つまり、隣が燃えてこちらに延焼した場合、頼れるのは自分の火災保険だけです。空き家だからといって、隣家からのもらい火のリスクが減るわけではありません。むしろ、放火のリスクは空き家のほうが高いと言われています。
人が住めば、保険は元の姿に戻ります
ここまでは重い話が続きましたが、解決は意外と単純です。誰かが住めば、その建物は住宅物件に戻ります。
賃貸に出して入居者が生活していれば、その建物は人が居住する住宅です。住宅向けの火災保険に加入でき、地震保険も付帯できます。保険料の水準も戻ります。しかも、その保険料は不動産所得の必要経費になります。空き家のときは純粋な持ち出しだったものが、収入から差し引く項目に変わるのです。
さらに、入居者は入居者で家財保険(借家人賠償責任保険を含むもの)に加入するのが通常です。入居者の不注意で建物に損害が生じた場合、そこから賠償される仕組みができます。空き家では誰も見ていなかった建物に、二重の備えがつくということです。
そして何より、人が住んでいれば火災の発見が早い。台風で瓦がずれれば連絡が来る。不審な人影があれば通報される。保険の話をしてきましたが、本当のリスク管理は、保険の前に、その家に目を向けている人がいるかどうかです。
今すぐできる、三つの確認
この記事を読み終えたら、次の三つを確認してください。どれも電話一本でできます。
一つ目、証券を探して契約内容を見ること。建物の所在地、契約者名義、補償の範囲、保険期間。名義が亡くなった方のままなら、その時点で手続きが必要です。相続によって建物の所有者が変わっているのに保険の名義がそのままだと、いざというときに保険金の受取りで手間が生じます。
二つ目、保険会社または代理店に「今は誰も住んでいない」と伝えること。言いにくいかもしれませんが、伝えないまま事故が起きるほうがはるかに不利です。伝えたうえで、この状態でどこまで補償されるのかを確認します。空き家でも加入できる商品を用意している会社もあります。
三つ目、その保険料を払い続ける意味があるかを考えること。空き家扱いで割高な保険料を払い、補償は狭く、地震保険も付かない。その支出を何年続けるのか。同じ家に人が住んでいれば、保険は通常の住宅として成立し、保険料は経費になり、家賃が入ります。この比較を一度してみると、判断が変わる方が多いのです。
私たちが管理費0円でお預かりする理由
富士ヶ丘サービスは、磐田市で介護施設を運営しながら、宅地建物取引業者として不動産の相談を受けてきた会社です。本業は売買仲介です。それなのに、なぜ管理料をいただかずに戸建てをお預かりするのか。
いずれ売る日が来たとき、その売却をご一緒できればそれで成り立つからです。だから貸している間の管理料は0円で、その代わり、預かっている間ずっとその家の状態と相場を見続けます。賃貸管理料を収益の柱にしている会社であれば、預かった家は長く預かるほうが得になり、「そろそろ売り時です」とは言いにくくなります。私たちはその立場に立たないことを選びました。
現在、磐田市・袋井市を中心に9件を管理費0円でお預かりし、すべてに借主がついています。0円なのは管理料であって、修繕費・原状回復費・固定資産税・火災保険料といった実費と、賃貸借契約時の仲介手数料は別途かかります。そこを曖昧にするつもりはありません。
火災保険の話は、地味で、後回しにされがちです。実際、ご相談に来られる方の九割は保険の話をしにいらしたわけではありません。売るか貸すかを決めたくて来られます。それでも私たちが最初に証券を確認するのは、この一枚が、最悪の日にご家族を守る唯一のものだからです。建物が焼けても保険が効けば、更地にして売るという道が残ります。効かなければ、解体費を自腹で払ったうえで、何もない土地が残るだけです。売る・貸す・残すのどれを選ぶにしても、その前に足元を確かめておいてください。
この記事のまとめ
- 誰も住んでいない建物は、火災保険で住宅物件として扱われないことがあります。保険料が上がり、補償が狭まります。
- 地震保険を付帯できなくなる場合があります。南海トラフの想定区域で、これは大きなリスクです。
- 無人になったことを保険会社に伝えていないと、事故の際に減額・不払い・契約解除となることがあります。
- 失火責任法により、もらい火で焼けても隣人から賠償を受けられません。頼れるのは自分の保険だけです。
- 放火は空き家の火災原因として上位に来ます。発見も遅れ、被害が大きくなりがちです。
- 人が住めば住宅物件に戻り、保険料は経費になり、入居者側の保険も加わります。
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本記事は2026年8月時点の一般的な整理であり、個別の保険契約の適用可否や保険料の判断ではありません。空き家の取扱い、区分、引受基準、補償範囲は保険会社および商品によって大きく異なります。ご自身の契約内容は、必ず保険証券と約款をご確認のうえ、契約先の保険会社または代理店にお問い合わせください。当社は宅地建物取引業者として、不動産の状態確認・賃料の見立て・募集と管理の部分をお手伝いします。