Column 09
市役所から手紙が来た。
管理不全空家・特定空家の話。
「空家等の適切な管理について」——市役所からこういう表題の封筒が届いて、慌ててご相談に来られる方がいます。結論から申し上げます。この段階なら、まだ大丈夫です。ただし、放っておけば段階は進みます。そして次の段階に入ると、税金が上がります。今どこにいるのかを、正確に知ってください。
空き家を持っている方にとって、行政からの通知は心臓に悪いものです。しかも文面は淡々としていて、何がまずいのか、放っておくとどうなるのかが分かりにくい。まずは、その手紙が制度のどの段階にあるのかを読み解くところから始めましょう。
根拠になっているのは空家等対策の推進に関する特別措置法という法律です。この法律は、市町村に対して、放置された空き家の所有者へ働きかける権限を与えています。そして、その働きかけには段階があります。
助言・指導、勧告、命令、代執行——四つの段階
制度は、いきなり強い措置に飛ぶようにはできていません。順を追って進みます。
| 段階 | 内容 | 所有者への影響 |
|---|---|---|
| 助言・指導 | 「草を刈ってください」「屋根を直してください」といった働きかけ | 法的な不利益はまだない |
| 勧告 | 指導しても改善されないとき、期限を切って求められる | 住宅用地の特例が外れ、土地の固定資産税が上がる |
| 命令 | 勧告にも従わないとき。相当の猶予期限を付けて命じられる | 従わないと50万円以下の過料 |
| 行政代執行 | 命令にも従わないとき、行政が代わりに除却等を行う | 工事費用は全額所有者に請求される |
最初に届く手紙は、ほぼ確実に助言または指導です。ここには法的な不利益はまだありません。「気づいていない所有者に知らせる」という性格のものです。ですから、この手紙を受け取ったこと自体を恥じる必要も、パニックになる必要もありません。ただし、返事もせず何もしないでいると、次の段階へ進みます。
いちばん大きな分かれ目は勧告です。ここを越えると、土地にかかっている住宅用地の特例が外れます。住宅が建っている土地は、二百平方メートルまでの部分について課税標準が六分の一に軽減されていますが、勧告を受けるとこの軽減の対象から外されます。建物は建ったままなのに、更地と同じ扱いの方向へ動くということです。年十万円だった土地の税額が、数十万円に向かって上がっていきます。
この特例が外れる時期にも注意が必要です。固定資産税は毎年一月一日時点の状況で課税されるため、その年の1月1日より前に勧告を受けていれば、その年度から特例が外れます。年末に勧告が出た場合と年明けに出た場合とで、影響が現れる年度が変わります。そして、勧告が撤回されない限り、翌年もその翌年も高い税額が続きます。一度きりの負担ではなく、状態を改善するまで毎年続く負担だという点が重要です。
なお、勧告を受けた事実は、その不動産を売却するときにも影響します。買主にとっては「行政から指摘を受けている物件」であり、価格交渉の材料になります。行政の記録に残るということは、資産価値の話でもあります。
その先の命令、行政代執行は、実際に適用される件数としては多くありません。ただし代執行に至れば、解体工事の費用——木造戸建てなら百万円から二百万円、条件が悪ければそれ以上——が全額請求されます。しかもその費用は税金と同じように徴収され、支払わなければ財産の差押えの対象にもなります。
「特定空家」と「管理不全空家」は、違うものです
ここが最近の改正で変わった、重要なポイントです。
従来、行政が本格的に動けるのは特定空家——そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態、著しく衛生上有害となるおそれのある状態、著しく景観を損なっている状態など——に認定された空き家に限られていました。つまり、かなり傷んでからでないと手が出せなかったのです。
そこで、その手前の段階として管理不全空家という区分が設けられました。「そのまま放置すれば特定空家になるおそれのある状態」の空き家についても、市町村が指導・勧告を行えるようになっています。そして管理不全空家への勧告でも、住宅用地の特例は外れます。
これが何を意味するか。倒壊しそうなほど傷んでいなくても、税が上がる可能性が出てきたということです。窓が割れたまま、屋根の一部が飛んだまま、草木が道路にはみ出したまま——そういう状態が続けば、対象になり得ます。「うちはそこまでひどくないから大丈夫」という感覚は、以前より通用しにくくなっています。
まずやるべきは、返事をすることです
通知を受け取った方にお勧めしているのは、単純なことです。市町村の担当窓口に連絡を入れてください。
行政の側が最も困るのは、所有者と連絡が取れないことです。連絡がつかない、返事がない、誰が管理しているか分からない——この状態が続くと、段階を進めるしかなくなります。逆に、所有者から「認識しています。こういう予定で対処します」という返事があれば、多くの場合は状況を見守ってもらえます。制度の目的は所有者を罰することではなく、空き家を改善させることだからです。
連絡する際は、何を指摘されているのかを具体的に確認してください。草木なのか、屋根や外壁なのか、ゴミなのか、防犯上の問題なのか。指摘の内容によって、必要な費用も期間もまったく違います。写真を送ってもらえることもあります。
もうひとつ、必ず確認していただきたいのが誰宛に通知が来ているかです。名義が亡くなったお父様のままなら、市町村は相続人を調べて、代表と思われる方へ送っています。つまり、その手紙を受け取ったあなたが単独の所有者とは限りません。他のきょうだいにも同じ内容を共有しておかないと、あとから「聞いていない」となり、対応の判断が遅れます。行政からの通知は、実は家族会議を開く絶好の口実にもなります。感情論ではなく、期限のある事実として全員に伝わるからです。
また、複数の相続人がいる場合、費用を誰が負担するのかという問題が必ず出ます。草刈り一回でも数万円、屋根の補修なら数十万円。ここで一人が立て替えると、後の遺産分割で不公平感の種になります。私たちがこの段階で賃貸をご提案するのは、家賃という共通の財布から費用を出せる状態を作れば、誰か一人が損をする構図が終わるからでもあります。
そのうえで、いつまでに何をするかを伝えます。「今月中に草を刈ります」「屋根については業者に見てもらい、二か月以内に方針を決めます」。この具体性が、次の段階へ進むかどうかを分けます。
指摘を解消するだけでは、また同じことが起きます
ここが本題です。草を刈り、屋根を直し、通知の件はいったん収まったとします。ではその一年後、二年後はどうでしょうか。
空き家であるかぎり、草はまた伸びます。台風が来れば、また屋根が傷みます。誰も気づかないまま雨漏りが進みます。つまり、指摘を解消する対応は、根本の解決ではなく、時計の針を少し戻しただけなのです。遠方にお住まいの方なら、そのたびに帰省し、業者を手配することになります。
根本的な解決は三つしかありません。売る、解体する、人に住んでもらう。この三つのどれかを選ぶまで、通知のリスクは消えません。
この三つを比べるとき、多くの方が「売る」と「解体」しか候補に入れておられません。不動産会社に相談すれば売却の話になり、解体業者に相談すれば解体の話になるからです。誰も「貸す」を勧めてこないのは、勧める立場の人が周りにいないからというだけのことが、実はよくあります。賃貸専業の会社は古い戸建てを積極的には扱いませんし、売買仲介の会社は売却で成り立っています。私たちが管理費0円という形をとっているのは、その隙間を埋めるためでもあります。
売れる家なら売るのがいちばん早い。売れる見込みが立たない家なら、解体して土地として売るという道もあります。ただし解体すれば住宅用地の特例は外れますし、費用は先に出ていきます。
そして三つ目が、誰かに住んでもらうことです。人が住んでいる家は、管理不全空家にも特定空家にもなりません。定義上、空き家ではなくなるからです。草は入居者が刈ります。屋根の異変は、天井にシミが出た日に連絡が来ます。住宅用地の特例もそのまま続きます。そして家賃が入ります。指摘を解消し、再発も防ぎ、収入まで生む——三つの中で、これだけが同時に成立します。
もちろん、貸すには最低限の状態が必要です。行政から指摘を受けるほど傷んだ家なら、それなりの修繕が要るかもしれません。だから私たちは「まず見せてください」と申し上げます。直して貸せる家なのか、直しても割に合わない家なのか。売買仲介が本業だからこそ、解体や売却という結論も遠慮なくお伝えできます。
私たちが管理費0円でお預かりする理由
富士ヶ丘サービスは、磐田市で介護施設を運営しながら、宅地建物取引業者として不動産の相談を受けてきた会社です。本業は売買仲介です。それなのに、なぜ管理料をいただかずに戸建てをお預かりするのか。
いずれ売る日が来たとき、その売却をご一緒できればそれで成り立つからです。だから貸している間の管理料は0円で、その代わり、預かっている間ずっとその家の状態と相場を見続けます。賃貸管理料を収益の柱にしている会社であれば、預かった家は長く預かるほうが得になり、「そろそろ売り時です」とは言いにくくなります。私たちはその立場に立たないことを選びました。
現在、磐田市・袋井市を中心に9件を管理費0円でお預かりし、すべてに借主がついています。0円なのは管理料であって、修繕費・原状回復費・固定資産税・火災保険料といった実費と、賃貸借契約時の仲介手数料は別途かかります。そこを曖昧にするつもりはありません。
行政からの手紙が届いた方に、最後にひとつだけ。その封筒を開けずに置いてある方が、実は少なくありません。気持ちは分かります。ですが、開けないでいる間も段階は進みます。そして進んだ先で失うものは、税額の差だけではなく、選べる選択肢そのものです。傷みが浅いうちなら貸せた家が、一年後には解体しか選べなくなる。手紙は、まだ選べるうちに届いた知らせだと考えてください。
この記事のまとめ
- 行政の働きかけは助言・指導 → 勧告 → 命令 → 代執行の四段階。最初の手紙に法的な不利益はまだありません。
- 最大の分かれ目は勧告。住宅用地の特例が外れ、土地の固定資産税が上がります。
- 2023年の改正で管理不全空家が新設され、特定空家の手前でも勧告の対象になり得ます。
- まずやるべきは窓口に連絡し、いつまでに何をするかを伝えること。連絡がつかないことが、段階を進める最大の要因です。
- 指摘を解消するだけでは一年後にまた同じことが起きます。根本の解決は、売る・解体する・住んでもらうの三つだけです。
- 人が住んでいる家は、管理不全空家にも特定空家にもなりません。特例も続き、家賃も入ります。
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本記事は2026年8月時点の一般的な整理であり、個別の行政処分の見通しや税額の判断ではありません。空家等対策特別措置法に基づく手続きの運用、判断基準、条例の内容は市町村によって異なります。実際の対応にあたっては、通知を出した市町村の空き家担当窓口に必ずご確認ください。当社は宅地建物取引業者として、不動産の状態確認・賃料の見立て・募集と管理の部分をお手伝いします。