Column 03
きょうだいで意見が合わないまま、実家が空き家になっている。
売りたい兄、残したい妹、返事をくれない弟。この三すくみのまま、実家が何年も空き家になっているご家族に、私たちは何度もお会いしてきました。そして分かったことがあります。多くの場合、ご家族は対立しているのではありません。決めるための材料を、誰も持っていないだけです。
「兄はとにかく現金にしたがっている。妹は、母が最後まで暮らした家をそんなに簡単に売れるのかと言う。私は正直どちらでもいいけれど、二人が言い合うのを見るのが嫌で、話題にしないようにしている」——先日いただいたご相談を、そのままお借りしました。この構図に心当たりのある方は、決して少なくないと思います。
お盆と正月に顔を合わせるたび、実家の話が出そうになって、誰かが話題を変える。そうやって三年、五年と過ぎていく。その間も固定資産税の通知書は毎年届き、庭木は伸び、屋根は少しずつ傷んでいきます。「決めない」というのは、何も選んでいないように見えて、実は「空き家のまま置き続ける」を毎年選び直しているということなのです。
この記事では、なぜ話が止まるのかを分解したうえで、私たちが実際にご家族へお出ししている「第三の案」をご紹介します。売るでも残すでもない、誰も負けない置き方です。
対立しているように見えて、実は情報が足りていない
ご家族の話し合いに同席させていただくと、意見の食い違いの多くが、事実の認識のずれから来ていることが分かります。兄は「あんな古い家、二束三文にしかならないから早く売るしかない」と思っている。妹は「あの立地なら、まだ十分価値があるはず」と思っている。どちらも、実際の査定額を見ていません。
あるいは、妹は「貸すなんて大掛かりなリフォームが必要で、何百万もかかるんでしょう」と思っている。兄は「借り手なんてつくわけがない」と思っている。どちらも、この地域の戸建て賃貸の相場を見ていません。見ていないもの同士で意見を戦わせているので、いつまでも結論が出ないのは当然です。
そこに、それぞれの立場から来る感情が乗ります。実家の近くに住み、親の介護をし、今も草刈りに通っている長男は「自分ばかり負担している」と感じています。遠方にいる次男は「何も言われていないのに口を出すと怒られる」と感じています。嫁いだ長女は「自分は口を出す立場ではないかもしれない」と感じています。誰も悪気はないのに、誰もが少しずつ傷ついている。これが、実家の話し合いの実像です。
とくに根が深いのが、親の近くにいた相続人の負担です。介護に通い、入院のたびに駆けつけ、亡くなった後は葬儀を仕切り、今も月に一度は実家の草を刈っている。この十年分の時間と交通費は、遺産分割の場で自動的に評価されるものではありません。法律には寄与分という考え方がありますが、認められる範囲は限定的で、実際には「親の面倒を見るのは当たり前」と片付けられてしまうことも多いのが現実です。だからこそ、その人の中に「自分ばかりが」という感情が残り、それが実家の話になると一気に噴き出します。
逆の立場もあります。遠方に住む相続人は、帰るたびに「何もしてくれない」という空気を感じ、口を出しにくくなっています。悪意があって連絡を返さないのではなく、何を言っても角が立つと感じているから黙っているだけ、というケースを私たちは何度も見てきました。返事がない=反対している、とは限らないのです。
そしてもう一つ、話をややこしくするのが実家に相続人の誰かが住み続けている場合です。同居していた長男がそのまま暮らしている、というケース。他のきょうだいから見れば「一人だけ家賃なしで住んでいる」ように映り、当人から見れば「親の介護を引き受け、家の維持もしている」となります。この場合は賃貸という選択肢自体が使えませんから、まず住んでいる人の生活をどうするかから話し合うことになります。今日の記事は、誰も住んでいない実家を前提にしています。
決めない期間に、いくら出ていっているか
話し合いを動かすために、私たちが最初にお出しするのが、この数字です。空き家を一年持ち続けるのに、いくらかかっているか。感情の話をいったん脇に置いて、事実だけを並べます。
| 項目 | 年間の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 固定資産税・都市計画税 | 6万円〜15万円 | 建物と土地の評価による |
| 火災保険料 | 2万円〜6万円 | 空き家は割高または加入不可の場合あり |
| 電気・水道の基本料金 | 1万円〜2万円 | 止めると通気・通水ができない |
| 草刈り・見回り | 3万円〜10万円 | 業者に頼む場合。自分で通うなら交通費と時間 |
| 合計 | 12万円〜33万円 | これが毎年、何も生まないまま出ていきます |
金額は物件によって幅がありますが、年に十数万円から三十万円が、何のリターンもなく消えているという構図はどのご家庭でも共通です。五年で六十万円から百五十万円。この金額を、多くの場合は近くに住む相続人が一人で立て替えています。
そして、この表に載らないコストがあります。建物の劣化です。人が住まなくなった家は、驚くほど早く傷みます。換気されないので湿気がこもり、カビが生え、木材が傷む。排水口の水が蒸発して封水が切れ、下水の臭いと虫が上がってくる。雨漏りが起きても誰も気づかず、天井裏で腐朽が進む。この目減りは、五年で数十万円から百万円単位に及ぶことがあります。売却を選んだときの査定額に、そのまま跳ね返ります。
これを並べてお見せすると、多くのご家族で空気が変わります。「売るか残すか」を争っていたつもりが、実際には全員が損をする三つ目の選択肢を選び続けていたと気づかれるからです。
「貸す」が、誰も負けない案になる理由
ここで第三の案を置きます。結論を出さずに、まず貸す。この案が優れているのは、対立している両方の言い分を、どちらも否定しないからです。
売りたい人にとっては、毎月の持ち出しが止まり、収入が入り始めます。管理の負担も、私たちのような不動産会社が窓口になるので、一人で背負う状態が終わります。「経済的に苦しいから早く売りたい」という動機は、かなりの部分が解消されます。
残したい人にとっては、所有権を手放していないことが決定的です。家はなくなりません。名義も自分たちのままです。誰かがそこで暮らし、風を通し、家を生きた状態に保ってくれます。「知らない人に住まれるのは嫌だ」というお気持ちが出ることもありますが、多くの場合、朽ちていく実家を見るほうがずっとつらい、と後で言われます。
決められない人にとっては、今は決めなくていいという許可になります。三年後、五年後、状況が変わってから考えればいい。その頃には相続登記も済み、それぞれの生活も落ち着いているはずです。
お金の流れを見えるようにすることが、最大の予防策です
賃貸に出すと決まったら、最初にやっていただきたいのがお金のルールを決めて紙に残すことです。遺産分割が済んでいない段階の家賃は、法律上は各相続人が相続分に応じて取得します。ですが実務では、代表者の口座でまとめて受け取り、固定資産税や修繕費を差し引いたうえで、年に一度精算する形がよく使われます。
この「年に一度、全員に同じ紙を送る」という運用が、驚くほど効きます。今まで誰が何を負担していたのかが、初めて全員の目に見えるようになるからです。長男が十年間払い続けていた固定資産税の重さも、遠方の弟が初めて理解します。逆に長男も、自分の負担が家族に伝わったことで、態度が和らぎます。数字は感情を溶かすことがあります。
話し合いの場に、誰か一人、家族ではない人を入れるのも有効です。きょうだいだけで集まると、どうしても子どもの頃の力関係が再現されます。長男が仕切り、下は黙る。あるいは昔の喧嘩がそのまま蒸し返される。そこに宅建士なり司法書士なり、利害のない第三者が一人いるだけで、話が「感情の応酬」から「物件の検討」に切り替わることがあります。私たちがご家族の集まる場に同席させていただくのは、営業のためではなく、この切り替えのためです。聞かれたことにだけ答えて、決めるのはご家族にお任せします。
私たちが、まとまっていないご家族から相談を受ける理由
富士ヶ丘サービスは、磐田市で介護施設を運営しながら、宅地建物取引業者として不動産の相談を受けてきた会社です。売買仲介が本業です。それなのに、なぜまだ売ると決まっていない、揉めている最中のご家族から相談を受けるのか。
答えは、私たちがオーナー様から月々の管理料をいただかないからです。賃貸管理料を収益の柱にしている会社なら、預かった家はできるだけ長く預かるほうが得で、「そろそろ売り時です」とは言いにくくなります。私たちは、いずれ売る日が来たときにその売却をご一緒できればそれで成り立ちます。だから貸している間の管理料は0円で、売り時が来たら売買仲介として「今なら売れます」とお伝えできます。ご家族が話し合っている数年間を、一緒に待つための入口として戸建て賃貸をやっています。
現在、磐田市・袋井市を中心に9件を管理費0円でお預かりし、すべてに借主がついています。0円なのは管理料であって、修繕費・原状回復費・固定資産税・火災保険料といった実費と、賃貸借契約時の仲介手数料は別途かかります。そこを曖昧にするつもりはありません。
そして、私たちにご相談いただいたからといって、貸さなければならないわけではありません。「この家は貸さないほうがいい」とお伝えすることもあります。そのまま売ったほうがいい家、解体したほうがいい家、あと数年そのままでも問題ない家。どれもあります。まずは、ご家族が同じ紙を見て話せる状態をつくるところから、お手伝いさせてください。
ご相談は、代表の方お一人からで構いません。全員の合意ができてから連絡しなければ、と思っていると、その合意がいつまでも来ないからです。まず一人が動いて材料を持ち帰り、それを家族に見せる。順番はそれで十分です。お問い合わせの時点では、貸すことも売ることも何ひとつ決まりませんので、気軽に投げてください。
この記事のまとめ
- きょうだいの話し合いが止まるのは対立ではなく、査定額も賃料相場も修繕費も、誰も見ていないからです。
- 「決めない」は選択肢のひとつではなく、空き家のまま置き続けるという選択を毎年し直していることです。
- 空き家の維持費は年12万〜33万円。これに建物の劣化が加わり、売却時の査定額に跳ね返ります。
- 「まず貸す」は、売りたい人にも残したい人にも背かない第三の案です。所有権は手放しません。
- 売る日を決めているなら定期借家で。期間満了で確実に終わります。
- 家賃と経費の精算書を年に一度、全員に送る。お金の流れを見えるようにすることが最大の予防策です。
あわせて読みたい
本記事は2026年8月時点の一般的な整理であり、個別のご事情に対する法務・税務の最終判断ではありません。記載した維持費の金額は磐田市・袋井市周辺の戸建てを想定した目安で、物件の規模・評価額・保険条件により大きく異なります。遺産分割や相続登記の手続きについては、司法書士、弁護士、税理士など各専門家の確認を必ず受けてください。当社は宅地建物取引業者として、不動産の状態確認・賃料の見立て・募集と管理の部分をお手伝いします。