Column 12
荷物が残ったままの実家を、
どこから片づけるか。
「片づけないと何も始まらないのは分かっているんです。でも、行くたびに手が止まってしまって」。この言葉を、私たちは何度うかがったか分かりません。空き家が動かない最大の理由は、名義でも費用でもなく、荷物であることが多いのです。そして、それは怠慢ではありません。
親御さんが亡くなられて、あるいは施設に入られて、実家に誰もいなくなった。名義の整理も、税金のことも、なんとか手をつけた。それでも家が動かない——その理由を突き詰めていくと、たいてい荷物にたどり着きます。
タンスの中の着物。ぎっしり詰まった食器棚。押入れに積まれたアルバム。父が使っていた工具。母が編みかけていた毛糸。捨てればいいと頭では分かっている。でも手に取ると、置いてしまう。そして「また今度にしよう」と鍵を閉めて帰る。
この記事では、捨てる決断をしないまま前に進む方法を先にお伝えします。そのうえで、いざ片づけるときの順番と費用の話をします。順番が逆なのは意図的です。多くの方にとって、必要なのは片づけのコツではなく、「今すぐ全部を決めなくていい」という許可だと思うからです。
捨てなくても、貸せる方法があります
賃貸に出すには生活空間を空けていただくのが原則です。ただ、やり方はいくつかあります。
ひとつ目は、一部屋を貸主側の物置として除外する契約です。家全体ではなく、「納戸と二階の一室は開けません」という条件で募集します。当然その分だけ賃料は下がりますし、借り手も限られます。それでも、どうしても処分の判断ができないものがあるなら、この形は成立します。実際、六畳一間を残したまま貸している物件はあります。
二つ目は、期間を区切って外部の倉庫に預ける方法です。トランクルームの費用は、荷物の量にもよりますが月に数千円から一万数千円ほど。家賃から十分に賄えることが多く、「三年後にもう一度考える」と決めておけば、今この場で捨てる判断をしなくて済みます。三年経つ頃には、ご自身の気持ちも変わっていることが多いのです。
三つ目は、相続人それぞれの家に分散して持ち帰ること。全員が少しずつ引き取れば、一人あたりの負担は小さくなります。この作業を一日でやるために、後述する順番が効いてきます。
四つ目として、荷物を残したまま古家付き土地として売るという道もあります。買主が自分で解体する前提であれば、残置物の処分も込みで引き受けてくれることがあります。その分だけ価格は下がりますが、片づけ費用も労力もかかりません。貸すより売るほうが合っている家であれば、これは十分に現実的な選択肢です。ただし、この場合も雨漏りやシロアリの状態は価格に効いてきますので、事前に把握しておく必要があります。
どの方法を選ぶにしても共通しているのは、「全部を片づけてからでないと前に進めない」というのは思い込みだということです。私たちが現地を見て最初にお伝えするのも、たいていこの一言です。荷物のある状態を見せていただいたほうが、正確な提案ができます。片づいた後の写真より、今のままの写真のほうが、判断材料としてよほど価値があります。
片づけを一日で終わらせるための順番
それでも、いつかは荷物と向き合うことになります。そのとき、闇雲に手をつけると必ず途中で力尽きます。順番があります。
第一に、重要書類を探す。これが最優先です。権利証(登記済証・登記識別情報)、実印と印鑑証明、預金通帳、保険証券、年金関係の書類、有価証券。これらは家中に分散していることが多く、仏壇の引き出し、桐の箱、押入れの上段、タンスの下の引き出しといった場所に入っています。これを先に確保しないと、後の手続きが全部止まります。片づけを業者に任せる前に、必ずご家族の手でやってください。
第二に、貴重品と現金を探す。この世代の方は、家のあちこちに現金を分けて置いていることがあります。着物の帯の中、本の間、天袋の菓子箱。業者に任せる前に、ここも押さえておきます。
第三に、思い出のものだけを抜く。写真、手紙、日記、位牌まわり。ここで大事なのは、見ないことです。アルバムを開いたら、その日はもう終わります。段ボールにまとめて、持ち帰る。中身を見るのは、家が片づいた後の落ち着いた日にしてください。
第四に、家具・家電・衣類・食器を一括で処理する。ここから先は、一つずつ判断しません。カテゴリで決めます。「食器は全部処分」「衣類は全部処分」。個別に手に取ると止まるので、手に取らない。ここは業者に任せるのが合理的です。
もうひとつ、実務的なコツを。片づけの日は、ゴミの収集日と搬出経路を先に確認しておいてください。この地域では自治体のゴミ出しルールが細かく、粗大ゴミの持ち込みには事前予約が要る場合があります。業者に一括で頼むならこの心配は不要ですが、ご家族でやるなら、当日になって「これは出せない」となると作業が止まります。また、家の前に軽トラックが停められるか、通路の幅は足りるか、二階からの搬出はどうするか。搬出経路が悪いと、業者見積りも上がります。
それから、片づけは一人でやらないでください。物理的な作業量の問題だけではありません。一人だと、ひとつひとつの品物の前で立ち止まってしまいます。二人いれば「これ、どうする?」「捨てよう」で三秒で終わります。きょうだいで日程を合わせるのが難しければ、当日は業者のスタッフに入ってもらうだけでも、判断の速度がまるで変わります。他人の目があるほうが、手が動きます。
費用は、どのくらいかかるのか
遺品整理・不用品処分の費用は、荷物の量と間取り、搬出のしやすさで決まります。この地域での一般的な感覚として、目安を挙げます。
| 規模 | 費用の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 2DK程度 | 10万〜25万円 | 作業は1日で終わることが多い |
| 3LDK・戸建て | 20万〜50万円 | 物置・庭の物量で変わる |
| 物量の多い戸建て | 50万〜100万円 | 納屋・車庫・仏間が満杯の場合 |
| トランクルーム | 月3千〜1.5万円 | 保留分を預ける場合 |
この金額を見て「やっぱり無理だ」と思われたかもしれません。ですが、家賃と比べてみてください。月六万円で貸せる家なら、年に七十二万円です。三十万円の片づけ費用は、五か月分の家賃で回収できる計算になります。空き家のまま置いておけば、その七十二万円は永遠に入りません。
業者選びについても一言。遺品整理を名乗る業者は玉石混淆です。見積りを書面で出すこと、追加費用の条件が明記されていること、一般廃棄物の収集運搬許可を持つ業者と提携していること——最低限この三つは確認してください。安さだけで選ぶと、不法投棄に巻き込まれるリスクがあります。処分を委託した側の責任が問われることもあります。
買取についても期待しすぎないでください。「価値のあるものは買い取ります」と言われますが、実際に値がつくのは限られます。骨董、貴金属、状態の良い家具の一部。着物や食器は、思い入れの大きさと市場価格が一致しないことがほとんどです。買取額を当てにして計画を立てないほうが、失望が少なくて済みます。
片づけてから相談する、をやめてください
私たちがいちばんお伝えしたいのは、これです。片づけが終わってから不動産会社に相談しよう、と考えている方が、何年も止まっています。
順番が逆です。まず相談してください。理由は三つあります。
ひとつ目。どこまで片づければいいかは、貸し方によって変わります。一部屋を除外する契約なら、その部屋は触らなくていい。現況に近い形で貸すなら、生活空間だけ空ければいい。全部きれいにしてから相談すると、やらなくてよかった作業まで終えてしまっていることがあります。
ふたつ目。片づける前に、貸せる家かどうかを知っておいたほうがいい。雨漏りやシロアリで貸すのが現実的でない家なら、荷物ごと現況で売るという選択肢もあります。その場合、片づけ費用の何十万円は不要でした。
みっつ目。期限があると、人は動けます。「いつか片づけよう」は来ませんが、「三月に入居予定が入りました」となれば、二月には終わります。私たちがご相談を受けて募集の段取りを組むと、そこで初めて日付が入ります。この日付が、止まっていた家を動かします。
最後に、片づけを終えた方から一番よく聞く言葉をお伝えします。「思ったより、あっけなかった」。何年も重かったものが、実際に着手すると一日か二日で終わる。そして終わってみると、悲しみが増えるわけでもなく、むしろ肩の荷が下りたと言われます。重いのは、片づけそのものではなく、片づけを前にした時間のほうなのだと思います。
そして、家に人が住み始めると、また少し景色が変わります。誰かがそこで食事を作り、洗濯物を干し、子どもが庭で遊ぶ。空き家だったころの、静かで暗い実家の記憶が、少しずつ上書きされていきます。ご実家を手放したわけではないのに、重さだけが軽くなる。貸すという選択には、そういう側面もあります。
私たちが管理費0円でお預かりする理由
富士ヶ丘サービスは、磐田市で介護施設を運営しながら、宅地建物取引業者として不動産の相談を受けてきた会社です。介護の現場で、ご家族が親御さんのものを片づけられずにいる姿を、何度も見てきました。だから私たちは、片づけを急かしません。
本業は売買仲介です。いずれ売る日が来たとき、その売却をご一緒できればそれで成り立ちます。だから貸している間の管理料は0円で、その代わり、預かっている間ずっとその家の状態と相場を見続けます。賃貸管理料を収益の柱にしている会社であれば、預かった家は長く預かるほうが得になり、「そろそろ売り時です」とは言いにくくなります。私たちはその立場に立たないことを選びました。
現在、磐田市・袋井市を中心に9件を管理費0円でお預かりし、すべてに借主がついています。0円なのは管理料であって、修繕費・原状回復費・固定資産税・火災保険料といった実費と、賃貸借契約時の仲介手数料は別途かかります。そこを曖昧にするつもりはありません。
この記事のまとめ
- 空き家が動かない最大の理由は、名義でも費用でもなく荷物であることが多いのです。
- 一部屋を除外して貸す、期間を区切って倉庫に預ける——捨てる決断をしないまま進む方法があります。
- 片づけの順番は①重要書類 ②貴重品 ③思い出(開かずに箱へ) ④その他はカテゴリで一括。
- 費用の目安は戸建てで20万〜50万円。月6万円で貸せるなら、五か月分の家賃で回収できます。
- 業者は書面見積り・追加費用の明記・一般廃棄物の許可の三つで選んでください。
- 片づけてから相談する、をやめてください。どこまで片づけるかは、貸し方が決まってから決まります。
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本記事は2026年8月時点の一般的な整理です。記載した費用の目安は磐田市・袋井市周辺での一般的な相場感であり、荷物の量・間取り・搬出条件・時期によって大きく異なります。遺品整理業者をお選びの際は、一般廃棄物収集運搬の許可を持つ業者と提携しているか、見積りが書面で出るかを必ずご確認ください。当社は宅地建物取引業者として、不動産の状態確認・賃料の見立て・募集と管理の部分をお手伝いします。