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Column 06

名義が親のまま、あるいは祖父母のまま。

「実家の名義、たぶん父のままだと思います」。ご相談の途中でそう言われることがよくあります。そして調べてみると、父ではなく祖父の名義のままだった、というケースが少なくありません。二世代分の相続が手つかずのまま、四十年、五十年と過ぎている。この状態は珍しいものではなく、そして放っておくと年々ほどけなくなります。

相続登記数次相続義務化名義過料

不動産のご相談をお受けするとき、私たちが最初に確認するのが登記の内容です。住所が分かれば、法務局で登記事項証明書を取り、誰の名義になっているかを確かめられます。ご本人が把握していなくても、こちらで調べられます。

そこでよく出てくるのが、亡くなった方の名義がそのまま残っているという状態です。お父様が二十年前に亡くなっているのに名義はお父様のまま。あるいは、お父様の名義ですらなく、その前のお祖父様の名義のまま。土地と建物で名義が違う、土地だけ共有で叔父や叔母の名前が並んでいる、といったケースもあります。

なぜこうなるのか。理由は単純で、登記をしなくても、日常生活では困らなかったからです。固定資産税の通知書は、市町村が把握している納税義務者——たいていは実際に管理している相続人——のところへ届きます。電気も水道も名義変更できます。近所づきあいにも支障がない。だから「そのうちやろう」のまま何十年も過ぎる。悪意でも怠慢でもなく、困らなかったから放置された、というのが実情です。

困るのは、その家を動かそうとした瞬間です。売ろうとして初めて「名義がお祖父様のままなので、このままでは売買できません」と言われる。あるいは、金融機関に担保として差し入れようとして止まる。名義の問題は、いつも「動かしたい」と思ったタイミングで顔を出します。そして動かしたいときというのは、たいてい急いでいるときです。

この状態は、多くの方が思っているより深刻です。そして2024年4月から、相続登記は法律上の義務になりました。「うちは昔からこうだから」では、もう通らなくなっています。

相続登記は、もう「やってもやらなくてもいい手続き」ではありません

これまで、相続による所有権移転の登記は任意でした。放っておいても罰則はなく、固定資産税の通知さえ届けば実生活で困ることは少なかった。その結果、全国に所有者が分からない土地が積み上がり、公共事業も災害復旧も進まないという問題になりました。

そこで法改正が行われ、2024年4月1日から相続登記が義務化されました。ポイントは三つです。

項目内容
期限相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内
罰則正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象
過去の相続施行前に発生していた相続も対象。その場合は施行日から3年が期限

三つ目が重要です。「昔の相続だから関係ない」ということにはなりません。お祖父様が昭和のうちに亡くなっていて、名義がそのまま残っている場合も、期限の対象になります。相続人が誰なのかを調べ、遺産分割をまとめ、登記まで持っていく——この作業を、期限の中でやることになります。

ただし、協議がまとまらないというご家庭のために、簡易な手当ても用意されています。相続人申告登記という手続きで、「自分はこの不動産の相続人の一人です」と法務局に申し出ることで、義務を果たしたものとして扱われます。ひとまずこれで期限の問題は回避できます。ただし所有権が確定するわけではないので、売却や本格的な活用の前には、結局きちんとした相続登記が必要になります。

放っておくほど、相続人は増えていきます

数次相続——相続の上に相続が重なった状態——のいちばん怖いところは、時間とともに関係者が増えるという点です。

お祖父様が亡くなったとき、相続人が子三人だったとします。この段階なら、三人で話し合えば済みました。ところが手つかずのまま三十年が過ぎ、その三人のうち二人が亡くなると、それぞれの配偶者と子が相続人に加わります。三人だったものが、十人近くになる。さらに時間が経てば、その子どもたちの世代へと広がります。

私たちが実際に見た中では、相続人が二十人を超えていた土地がありました。顔を合わせたことのない従兄弟、海外に住んでいる方、消息の分からない方。全員の同意が必要な売却は、事実上不可能でした。

放っておくと、話し合う相手が増えていきます 相続発生時 3人 — この時点なら、まとまります 20年後 8人 — 面識のない親族が入る 40年後 16人以上 — 所在の分からない人が出てくると、売却は事実上できません
図1放置は現状維持ではありません。年を追うごとに、ほどくのが難しくなっていきます。

ですから、名義が古いままだと分かった時点で動くのが、どの選択肢を取るにしても最も有利です。今なら三人で済む話が、十年後には八人になっているかもしれない。この作業のコストは、待つほど高くなります。

登記をほどく順番と、かかる費用

実際の手続きは、司法書士の仕事です。ただ、何が行われるのかを知っておくと、見積りを見る目が変わります。

まず戸籍を集めます。亡くなった方の出生から死亡までの連続した戸籍を取り寄せ、相続人を確定させます。転籍が多い家系だと、複数の市町村へ請求することになり、ここだけで一か月以上かかることもあります。数次相続なら、この作業を世代の数だけ繰り返します。

次に相続人の所在を確認し、連絡を取ります。戸籍の附票で住所を追い、手紙を出します。ここで返事が来ないと、話が止まります。

そして遺産分割協議。誰がその不動産を取得するかを決め、全員が実印を押した協議書を作ります。相続人が多いほど、この一枚を揃えるのが大変になります。

この協議書づくりで、実務上いちばん時間を取られるのが遠方や高齢の相続人です。印鑑証明書を取りに行くのが難しい、認知症が進んでいて協議に参加できない、こちらの説明を理解してもらうのに何度も足を運ぶ必要がある。相続人の中に判断能力を失っている方がいれば、その方について成年後見の申立てが必要になり、話は一段複雑になります。「相続人が全員そろって元気なうちに」が、実は最大のコスト削減策だというのは、こういう理由です。

また、相続放棄をした方がいる場合、その方は初めから相続人でなかったものとして扱われます。すると次の順位の人——たとえば亡くなった方の兄弟姉妹——が相続人になり、思わぬ範囲まで広がることがあります。「面倒だから放棄してもらおう」という安易な判断が、結果的に相続人を増やしてしまうこともあるのです。放棄には家庭裁判所での手続きと期限(原則として相続開始を知ってから3か月)もありますので、必ず専門家に相談してから決めてください。

最後に登記申請。登録免許税として、固定資産税評価額の0.4パーセントがかかります。評価額一千万円の不動産なら四万円です。これに司法書士の報酬が加わります。相続人が少なく単純な案件なら十万円前後、数次相続で相続人が多数にわたる場合は数十万円になることもあります。

費用を惜しんで先送りすると、確実に高くつきます 「登記に何十万もかかるなら、今はやめておこう」という判断を、私たちは何度も見てきました。しかし相続人が増えれば、戸籍の収集範囲も、協議書に必要な押印の数も、司法書士の手間も増えます。先送りは値引きではなく、値上げです。そして相続登記は義務になった以上、いつかは必ずやることになります。やるなら、いちばん安く済む今です。

登記が終わる前でも、貸すことはできます

ここからが本題です。「名義が祖父のままだから、何もできない」と諦めておられる方に、はっきりお伝えします。売却はできませんが、貸すことはできる場合があります。

相続が発生した不動産は、遺産分割が済むまで相続人全員の共有です。共有物について、建物を期間3年以内で賃貸に出すことは「管理行為」にあたり、共有者の持分の価格の過半数で決められます。全員の同意は不要です。登記名義が亡くなった方のままでも、法律上の所有者は相続人たちですから、この理屈は同じように働きます。

つまり、名義をほどく作業を進めながら、並行して家を貸しておくことができるのです。戸籍を集めて相続人を確定させるだけでも数か月、協議がまとまるまで数年かかることは珍しくありません。その期間を空き家で過ごすか、家賃を受け取りながら過ごすかは、大きな違いです。

ただし現実的な注意点があります。ひとつは、誰が貸主として契約するのかを整理しておく必要があること。持分の過半数で決めたうえで、代表者を定めて契約するのが実務的です。もうひとつは、入居者や保証会社への説明です。登記名義が亡くなった方のままだと、「この人は本当に貸す権利があるのか」という確認が一段増えます。説明できないわけではありませんが、余計な不安を与えれば条件交渉で不利になります。だから、可能なら登記を先に済ませるのがベスト、難しければ相続人申告登記だけでも入れておく——これが私たちのお勧めする順序です。

名義をほどく作業と、貸すことは、同時に進められます 登記の側 戸籍を集める 相続人と協議 相続登記の完了 家の側 持分の過半数で決めて貸す 家賃が入り、劣化が止まる 登記が終わるのを待って空き家にしておく理由は、ありません。
図2登記の手続きは時間がかかります。その間、家を止めておく必要はありません。
実際にお受けした相談から(再構成) 「土地は祖父名義、建物は父名義でした。司法書士さんに頼んだら相続人が十一人いると分かって、書類が揃うのに一年半かかりました。その間ずっと空き家にしておくのはもったいないと言われて、途中から貸し始めたんです。結果として、登記費用はその家賃でほぼ賄えました」——手続き費用を家賃で払う、という発想は意外と知られていません。

私たちが管理費0円でお預かりする理由

富士ヶ丘サービスは、磐田市で介護施設を運営しながら、宅地建物取引業者として不動産の相談を受けてきた会社です。本業は売買仲介です。それなのに、なぜ管理料をいただかずに戸建てをお預かりするのか。

いずれ売る日が来たとき、その売却をご一緒できればそれで成り立つからです。名義がほどけ、ご家族の方針が決まり、売り時が来る。その日まで何年かかっても構いません。だから貸している間の管理料はいただかず、その代わり、預かっている間ずっとその家の状態と相場を見続けます。賃貸管理料を収益の柱にしている会社であれば、預かった家は長く預かるほうが得になり、「そろそろ売り時です」とは言いにくくなります。私たちはその立場に立たないことを選びました。

現在、磐田市・袋井市を中心に9件を管理費0円でお預かりし、すべてに借主がついています。0円なのは管理料であって、修繕費・原状回復費・固定資産税・火災保険料といった実費と、賃貸借契約時の仲介手数料は別途かかります。そこを曖昧にするつもりはありません。

登記のことは司法書士、税のことは税理士の領分です。私たちはその方々と一緒に動くことに慣れています。どこから手をつければいいか分からない、という状態でご相談いただくのが、いちばん自然な入口だと思っています。

最後にひとつ。名義が古いままだと分かって、気が重くなられた方もいると思います。ですが、これはあなたが悪いわけではありません。前の世代が手をつけなかったものが、たまたまあなたの代で顕在化しただけです。そして、あなたがここで手をつければ、次の世代はこの問題を引き継がずに済みます。二十年後、お子さんが同じ思いをしなくていい。相続登記は、過去の後始末であると同時に、未来への手当てでもあります。その作業の費用を、空き家のままではなく家賃で賄えるなら、なおのこと今動く意味があると思います。

この記事のまとめ

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本記事は2026年8月時点の一般的な整理であり、個別のご事情に対する法務・税務の最終判断ではありません。相続登記の期限の起算、過料の運用、相続人申告登記の可否、必要書類は、ご家族の構成や登記の経緯によって異なります。実際の手続きにあたっては、司法書士、弁護士、法務局の窓口など専門家の確認を必ず受けてください。当社は宅地建物取引業者として、不動産の状態確認・賃料の見立て・募集と管理の部分をお手伝いします。